2021年2月22日
デザインの仕事が好きだ。
私は個人でグラフィックデザイナーをしている。
そして、デザインの仕事が好きだ。
混じりっけなくそう思えるのは幸せなことだな、と感じている。
デザインの仕事のどういうところが好きなんだろう。
自分なりに分析してみる。
私はロゴやパッケージをデザインすることが多いのだが、作業に入る前の依頼者へのヒアリングを大切にしている。会社の理念、オーナーの想い、業界や市場の今、商品に詰め込まれた技術、誰に届けたいかなどを濃く濃く聞かせていただくのだ。
そこには私の知らない世界がある。
様々な職種の人と出会えるところ、そして、その人が見ている世界を垣間見せてもらえるところが好きなんだな、とまず思う。
話を聞かせていただく中で、依頼者のまっすぐな想いや乗り越えてこられた試練にふれたりなんかすると、もうダメだ。「こちらもデザイナーとして覚悟を持って応えねば!」と、男気スイッチが入ってしまうのだ。
主婦として家庭を切り盛りしながら複数の仕事を抱えていると、ただただ目の前のことをこなすような感覚になることもある。
そんな時は一呼吸おいて、向き合っているのは「仕事」ではなく「人」なのだ、と思い直す。
誰かが人生をかけて取り組んできた仕事。
そんな会社のロゴ、商品パッケージをデザインする時、その「想い」を扱うことへの畏怖を忘れてはならない。
デザインの持つ明快さ、人の困りごとを解決する機能にも魅力を感じている。
これまで人の目に留まらなかった商品が、適したパッケージデザインを施すことによって品質や特徴が伝わり、手に取られるようになる。
会社の理念を表現したロゴは、そのあり方を伝え信頼を増し、そこで働く人たちの気持ちをも一つにする。
情報を分類、要約し、動線を整えた広告やホームページは、必要な人に届き行動を起こさせる。
まるで謎解きのようでワクワクしてしまう。
色、レイアウトのリズム、筆線のにじみ、ちょっとした余白さえも、イメージや質感を伝えるための重要なパーツとなり人に働きかける。
デザインの可能性は無限大!なのだ。
こんなふうに熱く語ってしまった後になんだが…
デザイナーは、もともとやりたかった仕事というわけではなかった。
幼い頃から絵を描くのが好きだった私が手繰り寄せたかったのは、漫画家としての未来だったのだ。
短大在学中に投稿作で受賞し、デビューが決まった。
卒業後、編集さんとのやりとりを続けながら、アルバイトと講師の仕事で食いつないだ。
だが、数年取り組んだものの大きく突き抜けることはできず、アシスタントとしての上京を打診された時、夢に区切りをつけた。
その後、知人の紹介で入った看板製作会社で商用デザインを学ぶことになった。そこから思いがけずデザイナーとして独立し、15年後の今に至る。
デザインは需要があるから始めた仕事だった。
好きかどうか、自分に向いているかどうかなんて考えもしなかった。
だが、デザイナーとしてたくさんの人と出会い、デザインが様々な現場で人の役に立つのを目の当たりにするうちに、そこにやりがいを感じるようになっていった。
どんな物事でもそうだと思うが、学び、工夫をしながら取り組めば、少しずついい形になっていく。初めは苦手だったことも、苦なくやれるくらいには変化していく。
できることが増えると喜ばれるシーンも増える。
すると、どんどんおもしろくなっていく。
いつのまにか私はデザインの仕事が好きになっていた。
家事と育児は女性の務め。世の中のそうした意識は根強い。
主婦が仕事の比重を大きくすると、生活時間を圧迫することになる。さらに世間の風当たりも強い。ワークライフバランスとは程遠い毎日だ。
これまで大切に育ててきた事業も、介護など今後の家庭の状況によって、ある日突然休止や縮小を余儀なくされるかもしれない。
だが、そんなことでへこたれるわけにはいかない。
働く時間を長くすることは難しいが、濃度を濃くすることはできるのだ。
縁あって出会えた人にデザイナーとして何ができるか。私はこれからもそれを模索していく。
なぜならこの仕事が大好きだから。